ガードナーさんが手を叩く度にうごうごするベハティ。 どうやら手を叩くと反応して動くダンシングフラワーの物真似をしているようだ。
ベンさん「皆分かるかなぁ……これなーんだ?」 ベハティ「(うごうご)」 ベンさん「あ、ついた。」 「はい、答え。行事が近くなると国際街通りなんかに置かれるダンシングフラワー……だよな?」 ベハティ「いかにも!」 ベンさん「あれ面白いよな。前で手ェ叩くと動くんだよね」 ベハティ「ひひ、面白いよね。あ、でもちょっと違うな」 ベンさん「違う?」 ベハティ「動き出す条件がね。わしがただ歩いて通りかかっただけでも動くときあるんじゃよ」 ベンさん「ふーん、手を叩く、が条件じゃないんだ。勘違いしてたな。じゃあ……」 Benedict Gardnerは指を鳴らした。 ベハティ「(うごうご)」 ベンさん「おー、ほんとだ。指鳴らしても動いた。音に反応してるなら、別に私じゃなくても、誰が音出しても動くんだね……今日はこんなに人がいるし」 ベハティ「ほうじゃねぇ。そういえばここに集まっとる人達の中の何人かはわしらのことを知っとる人がいるかもしれんな」 ベンさん「おぉそれは嬉しいねえ」 ベハティ「ステーキ屋さんとして」 ベンさん「違うんだよなぁ~」 ベハティ「漫才屋でも無いんじゃよ」 ベンさん「漫才屋だと思ってた人は手ぇあげなさい先生怒らないから」 ベハティ「そして今日で新たに怪談話屋さんが追加されるんじゃ」
まぁ、詳しい活動内容についてはまた今度機会があればということで。 わしについて言えば、普段は双蛇党で仕事をしたり、あとは自分の本職の活動をしとるよ。 本職の仕事が何なのかってそれは当然シャーマンとしての仕事じゃ。 人々の間を歩いて、縄が絡まっていればほどくし、土が頑固なら一緒に畑をほじくるし、まじないが必要ならば夢をかける。そういう感じのことじゃ。 結局のところ、何気ない日々の何気ない困りごとを解決するのがシャーマンとしての仕事じゃよ。 大抵が体の調子が悪いとか夜の寝つきが悪いとか、嫌な夢を見るとか、畑に害鳥めっちゃ来るんじゃとかじゃが、 中にはいわくつきのアイテムを「何とかしてくれぃ」と持ってくる者もおる。
いわくつきといえば、ひとつ思い出したことがある。今日はそれを話していこう。
ある男が、呪いのアイテムだというものを、わしに引き取ってほしいと依頼してきた。 金を払うから、お祓いもしてほしいという。 何故わしのところに来たのかと言えば、そういったことの専門家の中で、 ほとんどタダ同然の料金で対応していたからじゃとか。
お祓いと言っても、歯に衣着せぬ物言いをすれば単に代わりに物を捨てとるだけじゃから、 処理にかかった実費くらいしか請求しとらんかったからね。相場に比べれば控えめな料金じゃろう。
さて、その男はどうにも、落ち着かない様子でね。 日頃いろいろ溜まっておったんじゃろう、もろもろの心配事やら様々な事情やらをわしに話して聞かせてくれた。 誰かに話すと落ち着くこともあるしと思って最後まで聞いとったんじゃが、男の話をある程度整理すると、こんな調子になる。
「自分はウルダハに住んでいる。難民ほど貧しいってわけでもないが、 商人として活躍している人間達ほど恵まれているわけでもない、普通の暮らしだ。 そう思っていた。少なくとも元々はそうだったんだ。
最近色々あって金回りが悪い。 おそらく一時的だと思いたいが、以前と比べるとあまり豊かとは言えない。 いや正直に言えば貧乏生活が続いてる。 金を借りていたり、支払いが遅れて催促を受けたりするような状況で首が回らず、 そういう時ほど働いて金を手に入れなければならないのに どういうわけか仕事を辞めたい衝動に駆られて休みを繰り返すうちに職を失った。
結局更にまた金を借りるという悪循環なのだが、こうなるとまた非常に奇妙なことに、 借りた金のはずなのに、手元にあるとまるでそれが自分の財産であるかのような錯覚を得る。
これは何も俺に限った話じゃなくて、金を借りているはずなのに、家具を新調する奴もいるらしい。 俺は流石にそこまではしなかったけど、生活に必要なものを少しだけ、 普段より長持ちするものとか……いいやつにしてみた。
ろうそくを買ったんだ。
いや、これは生活必需品だろ? ウルダハの夜は暗いし、昔は持ってた青燐水のランプもいまは質屋に入ってる。 金があるなら酒場にでも行くが、あいにくそこまでは持ってない。 外で酒を飲むには足りないにしろ、久々に存在感のある財布の重みに上機嫌になった俺は、雑貨屋をうろつくことにした。 そこで目を惹いたろうそくを、他の生活用品と合わせて買うことにしたんだ。
見慣れない模様がついていて、少し大きめ。かすかに甘いような香りがする。 妙に会計に時間がかかった気がするけど、無事に買い物を終えて部屋に戻った。
国際街通りで買ってきた食い物を平らげて、酒を飲んで床に横たわっていたが、 だんだんと時間が経つごとに自分の本当の状況に意識を向けずにはいられなかった。
これが現実逃避なのは分かり切っているが、かといって真正面から向き合えるほど今の俺には気力も体力も無かった。 ふと、買ってきたまま片付けもせずに床に置きっぱなしにしていた生活用品の中のろうそくが目に入った。 まだ火が要るほど暗くもないが、気を紛らわしたくなった俺は、そいつに火を灯してみることにした。
しかしよく見てみると、なんだろうこの模様は。
俺はこれでも工芸品を見るのは好きな方だ。ラザハン風にも見えるが、どうやらそれも少し違う。 白地に黒で、手書きにしてはやけに綺麗にムラなく描かれている。 段々とそれは文字に見えて来たが、意味は全く分からない。
安酒を飲みながらそんなことを考えていたもんだから、いつのまにか眠っていたらしい。 何かが足先を撫でる感覚で目が覚めた。開け放した窓から入り込んだ夜風が吹き抜けていったようだ。 俺が寝入ってからそう時間は経っていないだろう。